私は文章というものは書けば書くほど上達すると思っています。ただし、漫然と書いているのではなく、しっかりとした意図を持って書いていればの話です。

私が公開している文章(ブログやコラム、書籍など)は、「なぜこの順序で書いているのか」、「なぜこの表現を使っているのか」、「なぜこの引用を使っているのか」など、理由を聞かれれば回答することができます。なぜなら意図を持って書いているからです。

今回のコラムでは私が意識している文章術について解説していきます。

0. その文章に主張(メッセージ)はあるのか

文章には「自分の主張」を含める必要があります。主張がなく何かを説明しているだけの文章は単なる記録(レポート)です。

もちろん媒体によって主張を消さざるを得ない場合もあります。でも主張を消したその状態に慣れきってしまうと、レポートしか書けない体質になってしまいます。適度に自分に負荷をかけて、主張を紡ぎ出すトレーニングをしましょう。

主張というものは原理的に意見が別れるものです。読み手が、「自分の人生に関係あるか」と感じられれば立派な主張です。賛否両論の議論が巻き起こる発言は典型的な主張です。さらっと流されてしまうような綺麗事は主張ではありません。

とはいえ、変なことを言って(特に敵対関係を煽るような発言をして)炎上させろと言うわけではありませんので、上手な塩加減を自分で見つけましょう。

主張を述べるのは、スタートラインに立つこと

ネット上に転がっているほとんどの文章に主張らしきものはありません。

それは文章で主張したことがないのか、和をもって尊しとする日本人は角を立てないことが美徳だからなのかはわかりません。でもそれは情報発信者として正しい姿勢では無いと思っています(主張)。

  • 私はカレーが好きです→主張っぽいが、あまりにも一般的すぎて議論にはならない
  • 私が一番うまいカレーだと思うのは東京のこのお店です→主張

ちなみになぜ「その文章に主張(メッセージ)はあるのか」を0番目の項目にしてあるのか。それは主張がなければスタート地点にも立っていないからです。

1.文章を彩る4つの型+α

文章は基本的に主張(結論)と論証(理由)で構成されます。論証は説明や肉付けのことで、なぜその結論に至ったのか、その主張は正しいといえるのか、などを載せていきます。

基本的に私は文章の型は以下の4つ+αしか無いと思っています。なぜαなのかは後ほど解説します。

1つ目は「三角形」型です。

主張(結論)を述べてから、その理由を説明していくスタイルです。外国語っぽい構成ですね。会社などで求められる報告についても、このスタイルを好む人が多いです。「わかったから、結論から言え」と注意されたことないですか?

ただ、三角形型のデメリットとして、主張を発散したのはいいものの、まとまらずに終わることも散見されます。論証が弱い、あるいは話がつまらなくて最後まで聞けない(聞いてもらえない)という点も挙げられます。

2つ目は「逆三角形」型です。日本人が好みやすい型ですね。

結婚式のスピーチが典型的で、5分ぐらい新郎新婦のエピソードがダラダラ続いて、本日はおめでとうという結論に至るスタイルです。この型の場合、ラストにぼんやりした主張が含まれている事が多いのですが(主張自体弱め)、途中で何を言っているのかわからなくなり、最後まで聞くに耐えられずビールに手が伸びやすい傾向もあります。

よって、1,2は私が使うことはほとんどありません。私がよく使うのはこれ以降の「ダイヤモンド型」「小逆三角形+ダイヤモンド型」のスタイルのいずれかです。

3つ目の「ダイヤモンド型」は、主張で始まり、証拠を述べ、最後に主張でまとめるという形になります。1と2のいいとこ取りをしているイメージです。このパターンが私の文章では一番多いです。

4つ目の「小逆三角形+ダイヤモンド型」は、最初にツカミというか小咄を入れ興味を引いた上でダイヤモンド型に繋げる型で、私が一番好きなスタイルです。文章を時間とアイディアと気力が満ち満ちている時は、積極的に使っています。

なお、先ほど+αと入れたのが「ペンシル型」あるいは「ストロー型」です。

残念ながらネット上に落ちているほとんどの文章は1~4にすらなっていません。細いペンシル型です。主張なのかも論証なのかもわからない、広がりも深みもない、一人よがりで厚みが無い、読み応えがない、直球で言えばつまらない文章です。

ペンシルなら軸があるのでまだしも、芯のないストロー型の場合も多いです。そんな文章を書き続けたくないですよね。書き続けたくないのであれば、意識してトレーニングをしましょう。

2.2つの事例と1つの主張

人間は不思議なもので、主張だけ述べられた文章と、事例を説明した後に主張を述べた文章では後者の方が信用する傾向があります。

例えばこのような文章があります。

  • ブロードバンド時代から20年、スマートフォン時代から10年、次の10年は?その一つの答えがAIを搭載したスマートスピーカーです。

これ、私が主張したいことは唯一つで、「これからの10年はスマート(AI)スピーカーが主流になります」なんですね。でもいきなりその一言が飛んできても、素直に受け入れてくれる人は多くないでしょう。

そこに誰でも知っている事例(歴史)で地ならししました。

それも一つだけの偶然ではなく、二つ以上の必然性を暗にアピールしたわけです。それが「ブロードバンドから20年、スマートフォンから10年」という一文です。誰もが納得するYesを置いておくことで、次のYesに対する反論を押さえているわけです。

普段、私はあんまり「2つの事例、1つの主張」スタイルは使わないのですが(効果が大きすぎるので)、ここぞというタイミングに使用します。それはガッツリと信用させたいときです。

3.引用と権威

私はよく引用を使っています。特に厚生労働省や総務省、電通といった大組織のデータを使うことが多いです。

そもそも引用を使う意味(効果)は以下の3つがあります。

  1. 本文の内容と違和感がない
  2. 引用物自体に価値がある(面白い、はっとする、為になる)
  3. なぜその引用が思いついたのか(読者には)謎である

最低でも1、2を満たしていない引用は意味がなく、邪魔なだけです。そして、信頼性の高い組織のデータや記事を使うことで、説得力を増せます。そこには権威があるからです。

染谷一人の主観と、総務省統計局の発信したレポートのどちらを信用しますか。「私はこう思います」と発するのと、「統計局のデータを鑑みても明らかです」と発するのではどちらを信用しますか?

「統計局のデータを鑑みても明らかです」をさらに分解すると、「統計局のデータはこちらです。私の意見も一緒です。」と自分の主張を、信頼できる組織の名前を借りておこなうことができるんです。どこの馬の骨かわからない人の言葉を引用しても、狙った効果は生み出さないんですよ。

私のセミナーに参加したことがある人は知ってると思いますが、私は引用事例として夏目漱石の「吾輩は猫である」や、スピッツの「楓」の歌詞を使います。使う必要があり、フレーズ自体に価値があり、そして参加者にとって疑問と驚きを提供できるからです。

参考)引用のルール

4.気付かなかった秘密の共有と、未来の豊かさのイメージ

人は未来が豊かになるという秘密を知ったら、勝手にポジティブなイメージを膨らませます。信じる理由を自分自身で補完してくれます。

こちらも例文を使って解説します。

想像してみてください、Amazon Echo(スマートスピーカー)のある生活を。朝6時、スマートスピーカーから流れる穏やかな音楽で起きる。音楽が止み、今日のスケジュールを告げるスピーカー。一通り、1日の流れがわかった後におもむろに、

「今日、キングダム66巻の発売日ですけどどうしますか?」
「おおマジか、Kindle版買ってスマホにダウンロードしておいて」

勝手に掃除してくれて家事が楽になる、なおかつ動きがかわいいルンバ。アーリーアダプターを気取れて、話しかけるだけで電気が点いたり音楽が流れたり調べ物ができたりするスマートスピーカー。いろんな規制はありつつも、認可が降りたら絶対活用したい自動運転などなど。

人間は自分の生活が豊かになる、あるいは豊かになりそうと感じたモノには勝手にポジティブなストーリーを補足して、都合の良い情報だけ覚えている傾向があります。

5.問いかけと種明かし

このテクニックは信じさせるというよりも、内容を記憶に残させるために使っています。サラッと読んだだけだと忘れちゃうんですよ。本文内で問いかけることにより脳に働いてもらい、答えを載せることでなるほどと感じてもらい、そして覚えて欲しかったんです。

こちらも例文を使ってみます。

  • インターネットが普及して20年経ったわけです。では10年前にはなにが生まれたでしょうか。そう、iPhoneです。
  • ではiPhoneを中心としたスマートフォンの普及によって消えた産業はなんでしょうか?代表的なものは目覚まし時計です。mp3プレイヤーも消えました。カメラの性能はコンパクトデジタルカメラも必要ないレベルになっています。下手したらパソコンも危ういです。自動車のナビゲーションシステムもGoogleマップで代替可能です。
  • 20年前からの10年間はパソコンとインターネットの時代でした。その後の10年間はスマートフォンの時代でした。ではこれからの10年はどのような時代になるのでしょうか。その一つの答えがAIを搭載したスマートスピーカーです。もしかしたら自分から能動的に商品を探す時代は終わりを告げているのかもしれません。そのような状況で、あなたはどのように情報発信しますか?

いかがでしょう?問いを投げかけることで、能動的に問題に関わらせることができます。これにより印象に残るわけです。

この問いかけと種明かしを言い換えるとしたら「蛇行」です。

文章に厚み深み、趣深さを印象づけることは、うまく蛇行できているかどうかで決まります。蛇行していない文章はつるつるしていて印象に残らないんです。やや読みにくくても、蛇行していると印象に残るんです。

旅行と一緒です。真っ直ぐに新幹線や飛行機で一直線に目的地に辿り着くより、あれこれ寄り道していろんな景色を見た方が記憶に残りますよね。会社の出張で思い出深かったことってありますか?

ほとんどの人は一直線の出張記しか書けません。ただ大阪に行っただけなんです。難波でたこ焼き食べて、2~3時間かけて街ナカを散策することで大阪の印象が残るんですよ。蛇行させた文章を書けるようになることで個性が生まれるんです。

6.ユーモアと真面目さのバランス

ユーモアと言っても「面白い人」になる必要はありません。「少し変わった言語センスのある人」「個性的な言葉遣いをする人」と思われるためのユーモアが大切です。文章に人間性が出て、言語センスが自分(読み手)とあっているか確認できるんです。

ここでいうユーモアとは一撃で爆笑させるK.O.パンチではなく、じわじわ効いていくボディブローのイメージです。面白いかどうかは別にして、息抜きになるんです。

スベるのが恥ずかしいからユーモアを入れないのは、単なる書き手のエゴです。読み手のためにユーモアを入れて、息継ぎをしてもらって、記事を最後まで読んでもらうんですよ。

自分のユーモア(ボケ)をわざわざ例に出すのは恥ずかしいので今回は例文を載せませんが、このサイト内の私が書いた文章を読んでいただけるとその雰囲気は伝わるかなぁと思います。

言葉には力がある

言葉には人を操るパワーがあります。だからこそ、その力を行使する「人」が重要なんです。

大なり小なり、自分は世界に影響を与えている存在なんだと自覚して、いかにわかりやすく、最後まで読んでもらえて、「あぁ、面白かった」と読み手に思ってもらえるような文章を学び続けましょう。

投稿者プロフィール

染谷昌利
染谷昌利
ブログメディアの運営とともに、コミュニティ(オンラインサロン)運営、書籍の執筆・プロデュース、YouTube活用サポート、企業や地方自治体のIT(集客・PR)アドバイザー、講演活動など、複数の業務に取り組むパラレルワーカー。

現在は複業(副業・兼業)の重要性を伝えるため、新聞や雑誌、ウェブメディアの連載や取材の傍ら、テレビやラジオなどのマスメディアへの働きかけをおこなっている。

著書・監修書に『副業力』(日本実業出版社)、『ブログ飯 個性を収入に変える生き方』(インプレス)、『ブログの教科書』(ソーテック社)、『成功するネットショップ集客と運営の教科書』(SBクリエイティブ)、『クリエイターのための権利の本』(ボーンデジタル)、『複業のトリセツ』(DMM PUBLISHING)など45作(2022年5月現在)。