※この連載は作家 浜口倫太郎先生より特別に許可をいただき、ご本人のnoteから転載させていただいています。浜口先生のnoteはこちら

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『パクる』という言葉は悪い意味で使われることが多いですよね。特に僕のような創作の仕事をしている人間にとってはタブーとなり、オリジナルという言葉が崇め奉られています。

だが一方で、完全にオリジナルなものなどもうこの世にはないとも言われています。

例えば僕の友達が目を爛々と輝かせ、

「なあ、俺ずっと20年以上これまでにない新しい話を考えてて、昨日ふと思いついたんや。聞いてくれるか?」 と身を乗り出してきたとします。

「何?」

「川から桃が流れてきて、それをおばあちゃんが拾うんや。そしてその桃を割ると、中から赤ん坊が出てくる。そしてその赤ん坊が大人となり、鬼退治するんや。どうや斬新やろ」

どう返してやればいいのか途方にくれますよね。

何かオリジナリティがあるもの考えたとしても、それは過去に誰かがすでに考えている。正直このケースの方が大半でしょう。

ビジネスでもゼロからイチを生み出すのはコストも時間もかかります。ならば自分たちがやりたいことをすでに成功させている人物や企業から学んだ方が、コストも時間も節約できます。実に合理的な考え方ですよね。

この手法を極め、才能がなくても大成功した人物がいます。実業家・五島慶太です。

東急電鉄の創始者で、鉄道王と呼ばれた人です。この五島のビジネス手法はただ一つ、これだけです。

『徹底的に小林一三の真似をする』

小林一三は阪急電鉄の創始者で、宝塚劇団を立ち上げた人物です。その独創性のあるアイデアで新規事業を次々と成功させています。ビジネスの天才です。

しかし五島には小林一三のような斬新で画期的なアイデアを産む才能はありません。

そこで五島はどうしたか? 天才・小林一三を盗んだんです。

阪急電鉄の真似をして東急電鉄を作り、阪急不動産の真似をして東急不動産を作りました。さらに阪急百貨店を真似して東急百貨店を建て、東宝を作れば東映を作ります。小林が第一ホテルを建てれば、五島は東急ホテルを建てました。

もう見事なほどすべてが小林一三のパクリです。五島はその盗みぶりと強引な手法で、『強盗慶太』というあだ名がつきました。

ですが結果的に五島は大成功を収めました。

この話で凄いところって、五島の潔さですよね。俺には才能はないと完璧に見切ったからこそ、小林一三を徹底的に盗めたんです。

いや俺もオリジナルなビジネスできるよ。そんな自尊心など五島はあっさり切り捨てました。

とはいえクリエイティブな世界でこんな露骨な盗み方はできません。パクリだ、パクリだとパクリ自警団が大騒ぎしますからね。

クリエィティブな世界では、パクリ自警団に気づかれずに盗むという手法が効果的です。

この手法を効果的に使ったのが、芸人の島田紳助さんです。

紳助さんは先輩である『B&B』の漫才を徹底的にパクったそうです。といって一言一句同じ漫才をしたわけではありませんよ。それではパクリ自警団の警戒網にひっかかります。

台詞や設定を盗んだのではなく、B&Bの漫才の構造をパクったんです。

表面上のものを盗めば気づかれますが、それを形成する構造をパクれば人は気づかないんです。

ただB&Bの洋七さんは、自分たちの漫才を紳助さんが盗んでいることにすぐに気づいたそうです。まあプロはわかるんですよね。でも一般の人にわからなければOKなんですよ。

人気クリエイターというのはこの盗む技術がうまいもんなんです。そしてこれが、才能のない人間でも勝ち上がれる唯一の方法かもしれません。

あと盗む技術を身につけるもう一つの利点としては、作品を量産できるんです。

オリジナリティーにこだわっている人って量産が苦手なんです。だから寡作になってしまう。

ヒットっていうのは偶然に大きく左右されます。何があたるかわからない。だから衝突回数を増やしてその確率を高める必要があります。そのためには作品を量産できる多作なクリエイターが有利になるわけです。

どう盗む技術を身につけるか。これは作家のみならずいろんなジャンルでも大切なことです。

投稿者プロフィール

浜口倫太郎
作家、放送作家、漫画原作、ウェブトゥーン原作。著書『ワラグル』『お父さんはユーチューバー』『AI崩壊』『22年目の告白』『廃校先生』他多数。noteで連載小説。アイデア、ストーリーの作り方、自己啓発、歴史、本、漫画、映画、アニメ、ゲームなどについて話します。猫、ラーメンが好きです。